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美の化身 薔薇王と繋がるための
薔薇の魔道具
Rose Miroir
素材 Silver925/ガーネット・アメジスト
全長 7.5cm/幅 2.7cm
¥58,000(トップのみ)
※石変更相談承ります。
18金メッキ +3,000円
Story
その王国は、不思議な力に満ちていた。
昼はキラキラと輝く光が空気の中に溢れ、夜は寒くもないのに美しいオーロラが空で輝く。
街には魔道具店が立ち並び、魔術はこの国で日常茶飯事だった。
ここは魔法国家・アグラルダス。
国王は強大な魔力を持ち、国全体を守り、民を導く賢王だった。
その娘に、グノーシアという名の姫がいた。
彼女は鏡を用いた魔術を得意とし、伝統に従った方法で日々ミラーマジックの鍛錬をしていた。
鏡は全てを写す。強い意志がなくては、鏡が見せてくる真実には耐えられない。
しかし、彼女はそれに耐えうる精神力と、鏡が見せる映像を正しく解釈する知恵をも持っていた。
ある日、彼女は父から一つの小箱を手渡された。
薔薇のレリーフが美しい、繊細な銀細工の箱を開けてみると、中にはひとつのペンダントが静かに眠っている。
父王によると、ローズ・ミロワールと名付けられたそのペンダントを使いこなせる者は、植物界にある薔薇の国の王と話をすることができるらしい。
薔薇王はそれはそれは美しく、見るもの全ての心を魅了し、人生における愛情や美の事について説くという。
父王は言う。さて、おまえに薔薇王は姿を見せてくれるかな?
その日から姫はローズ・ミロワールを調べ始めた。鏡というが、そのペンダントでものを映す所は中央にはまった楕円形のガーネットのみである。
その中を覗くのか、これを持ち瞑想するのか、水に浸してみるのか、月夜の晩に翳すのか。
様々な方法を試してみれど、ローズ・ミロワールに薔薇王が現れる気配はなかった。
なんとかペンダントの向こうに薔薇王の姿を見出したいと、姫は己の美を見直してみた。
着るもの、食べるもの、話す言葉や所作、考える事、部屋のインテリアや掃除など、たくさんの事に気を配った。
そのおかげで姫は一層鮮烈な美しさを身に纏う事になり、宮廷での評判は飛躍的に上がったが、薔薇王は一向に姿を見せない。
姫は最初の頃は、美を磨く事は付け足す事だと思っていた。身につける宝石を選別し、新しい素養を得て言葉を飾り、部屋に新たな調度品を置き、ありとあらゆる「美しい」とされるものを見て、足りない事を補おうとした。
しかしやがて、削る事に意識が向いてきた。
部屋から必要ないものを捨て、瞑想などを用いて無駄な雑念、古い概念を捨て、言葉は鋭く簡潔に、そして五感を研ぎ澄ませた。
世界に美しいとされるものは数多ある。
では自分にとって本当に美しいものとは?
着飾ることより大切なもの。
星々の煌めき、宇宙の静寂、シンと静まり返った、己の心。何者にも揺るがせられない、平穏さ。
真の美しさを求め出す。
魂の輝き。一瞬一瞬を懸命に生きる姿。常に進化し続けようとする意思。
ああ、そうだ。姫は思った。
私は外側ばかりを見ていたが、真の美しさとは、今を生きる命の煌めき。その尊さ。
善を成そうとする心。そしてそれを実行すること。
目を閉じる。そこに広がる世界。無我の境地。そこから生まれる、自分だけの美しさ。
神の光は、私の内側にあるのだ。善と美の中にのみ、神は住まうのだ。
だって、目を瞑れば、自然と広がる……
気がつくと、そこは見渡す限り真紅の薔薇に包まれていた。鼻孔をくすぐる夢のような香り。花びらはきらきらと宙に舞い上がり、光を伴って降り注ぐ。
黄金律により定められた花弁の絶妙な配置。宇宙の法則は大自然の中に当然のように宿っている。
さわさわと揺れる薔薇たちの花音は、可憐な少年少女の透明感を持ち、姫の足を花園の奥へ奥へと誘った。
導かれるまま歩を進めると、眩い薔薇たちの向こうにひとりの人物が立っているのが見えた。
豪奢な黄金の髪は長く揺蕩い、瞳は極上のルビーのよう。秀麗な眉目は聡明さを朗々と奏で、男性のものとは思えぬ艶やかで蠱惑的な唇は、見るものの心に感動と情熱を与える。
しなやかな四肢を包むのは月明かりの絹糸で織った繊細な光を宿す長衣で、襟元や袖には流れ星の尾が一筋と、一等星が鏤められていた。
長い睫毛が落とす影さえも、彼ーー薔薇王の鮮烈で稀有な存在感を際立たせる、優美なシャドウであった。
姫は立ち尽くした。
今までたくさんの美男を見てきたが、これは……この方には敵わない。誰一人として、敵わない。
呆然とただ薔薇王を見つめるだけの姫に、薔薇王は微笑みを見せた。それだけで芳しい香りが漂うようだ。
濡れたように光を弾く桜貝の爪が、すいと姫の持つローズ・ミロワールを指す。
ーよく、繋がったものだ。
玲瓏たる音色の声が直接脳に響き、蕩けそうだった。姫は脚に力を入れる。ともすればへたり込んでしまいそうだったからだ。
ー真の美しさとは何か、呉々も見失わぬようにせよ。日常というものに気を取られるな。進化をやめてはならぬ。高貴さは内面に宿るもの。己が心に誇りを宿すがよい。さすれば私はそなたの心に居よう。
そうして音もなく近付き、そっと姫の額に手を置いた。
瞬間、眩い光が視界を覆い、むせ返るような薔薇の香りに包まれる。
我はそなた、そなたは我……。薔薇王の声が、耳に心地よく木霊した…。
ふと目を醒ますと、そこは自室の寝台の上であった。
まだ朦朧とする頭で先程の出来事を反芻する。薔薇王に、会ったのだ。会えたのだ。本当に…美しかった…
ゆっくりと起き上がると、繊細な格子窓の向こうに薔薇色の雲が広がっていた。夕刻のようだ。
姫は窓の傍に寄り、その色彩を眺めた。赤、橙、紫、藍…。
そして、へなへなと座り込んだ。脚が震える。今になってようやく、大きく息を吐き出した。
胸がドキドキする。顔が熱い。全く、なんという美しさだ。今まで見たどの絵画よりも美しく、絢爛で、情熱的だった。なんだったのだろう、あの瞬間は。
彼の言った言葉を思い出す。
日常というものに気を取られるな。
進化をやめてはならぬ。
己が心に誇りを宿すがよい。
そうだ。気を付けねばならない。敵は日々の生活の中に潜む。心に誇りを宿し、常に進化を模索し続けること。
お約束致します。
姫は薔薇色の空を見上げ想った。
美への誠心こそ、我が人生。この身をもって、生き様をもって、私は私の美を表現して生きましょう。
私の一挙手一投足すべて、貴方に捧げましょう。それがひいては己に対する献身になるのですから。
貴方は私の中に居る。そうなのですね、薔薇王…。
そうして姫は、まるで薔薇のような美しさと高貴さ、そして賢明さが大きく国民に支持され、その後はじめての女王として国を治めた。
ローズ・ミロワールを手にする者は、己の中で何かが変化するという。
それはまるで、ゆるやかに薔薇が咲き誇るように、貴方をきっと美しく変えていく事だろう。
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